絶叫し先走る全知の魔

かわいそうなおじさんを、これ以上生み出してはいけない。

先走り汁と化したおじさん

カウパー氏をご存知だろうか。 外科医のおじさんである。

尿道球腺について初めて詳細な解剖図を描いた功績により、カウパー腺とカウパーの名前が付けられていることで知られる。

ウィリアム・カウパー - Wikipedia (2025-09-22)

(特定の年齢を持たない故人をおじさんと呼ぶべきかは諸説あろうが、とりあえず親しみを込めた敬称として使うことにする。)

さて、日本にはそんなカウパーおじさんを先走り汁そのものにしようとする不届きな輩が多くいる。 すなわち、先走り汁 (あるいは我慢汁) を「カウパー」と呼ぶ勢力である。 だが、外科医のおじさんが一体何をしたというのか。 何の罪があって男性器から滲み出る (滲み出る?) 存在と同一化されなければいけないのか。

……といった現象はそれなりに存在し、目撃するたびに私は「“カウパーおじさん“ だ……」と思ってしまうのである。

この記事は、これ以上カウパーおじさんを増やしてはいけないという話だ。

叫ぶおじさん

とはいえ日常のふとした瞬間に先走り汁について考えるのは何か嫌だという人もいるだろう。 その場合、類似の有名な事例として、ムンクの『叫び』を思い出すこともできる。

つまり「叫び」はこの絵で描かれている人物が発しているのではなく、「自然を貫く果てしない叫び」に怖れおののいて耳を塞いでいる姿を描いたものである[3]

叫び (エドヴァルド・ムンク) - Wikipedia (2025-09-22)

豆知識としては、ある意味定番といえるほど有名である。 『叫び』で描かれている人物はムンクではなく、なんなら人物も叫んでいないのだが、「ムンクの『叫び』」と呼ばれるせいでムンクが叫んでいる絵だと思われてしまっているというものだ。

健全なイメージを保ちたい人は、このような現象を目撃したとき「“ムンクおじさん” だ……」と思えば良い。

余談

どうでもいいが、こういった何もかもが間違っている呼称や命名のことを個人的に「神聖ローマ帝国」と呼んでいる。

神聖ローマ帝国、と自らを呼んだ、そしていまだに呼んでいるこの政体はいかなる点においても神聖ではなく、ローマ的でもなく、帝国でもなかった。

神聖ローマ帝国 - Wikiquote (2025-09-22)

実は “カウパーおじさん” は SF や中二病文脈にも結構いる。 特に有名なのは「ラプラスの魔」と「マクスウェルの魔」だろう。

これらはいずれも、思考実験や仮説のために提唱された架空の存在の呼び名である。 ラプラスおじさんが決定論を説明するために提唱した、世界の全ての物質の力学的状態を知っている超越的な存在がラプラスの魔であり、マクスウェルおじさんが熱力学の法則について考える思考実験で提唱した仮想的な存在がマクスウェルの魔だ。

しかしこれがフィクション的な文脈になると、これらの魔をモチーフにしたキャラクターに「ラプラス」や「マクスウェル」といった名前 (あるいはそれをもじった名前) を与える事例が出てくる。 (具体例を出せと言われてすぐに良いものを出せるわけではないが……心当たりのある人は少なくないはずだと思っている。)

ほんとにええんか? おじさんやぞ?? というのが正直な感想である。 いやべつにおじさんの名前にあやかること自体には何の問題もないのだが、ペットやそれと同種の別個体を飼い主の名前で呼ぶかのような所業をどんな表情で見たものか若干悩ましい。

で、そういったキャラクターを見ると思ってしまうのである。 「“カウパーおじさん” だ……」と。

猫や女の子を見て、先走り汁に塗り替えられてしまった哀しきおじさんのことを思い出す哀れなオタクが、少なくともひとり、ここにいる。 哀れなオタクを代表して、皆さまには是非とも “カウパーおじさん” を減らすよう意識していただけるようお願いしたい。 (たとえば存否の不確定な存在や猫の名前を「シュレディンガー」やその変形にしないでください!)